2010年06月29日

行き着くところは、土壁なり

深い軒.jpg


ー便利なものは不便であるー 

私が古民家再生をして、教えられたこと。

たとえば、電動の鉛筆削り。これはコンセントに差し込まないと動きません。でも、ナイフでだって鉛筆は削れます。停電していても大丈夫。しかもナイフは他のものだって切れます。電動鉛筆削りは他の用途には使えません。

住むことも家をつくることも、便利で簡単、楽をすることばかり考えるのはどっかおかしいなあ、と。

古来から日本の民家は地場の材料でつくられてきました。
土、竹、木、紙、すべて土に返る素材です。

「古くなった畳は田んぼに入れとけば、肥やしになる」と聞いたとき、都会育ちの私は目からウロコでした。

とにかく、ゴミになるようなものは使われていないです。

「これこそ、本物の環境共生住宅じゃない?!」

それ以来、木組みを活かした住宅を設計しながら、「いつか土壁を東京で」と思っていました。


5年前に「草屋根の家を設計してほしい。エアコンなしで暮らしたい。」との依頼があったとき、「これだ!」と思いました。

珪藻土やら火山灰いりの塗り壁など、調湿、消臭効果があると唱って出回っていますが、ボードの上に数ミリ塗って、どれほどの効果があるのか、、、。

夏場に民家に入った時の、ひんやりした感じ、夏を旨として建てられた家、それに少しでも近づけたいと、土壁を提案しました。

土壁は、土をつくるところから始まり、竹で小舞をかき、荒壁をつけ、十分乾かし、それから中塗り、仕上げと時間もかかります。

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これは、その時の作業風景。
小舞かきは、東京ではかなり珍しいので、大工さん仲間も一緒に作業。
少し器用な人なら、誰でもできます。建て主さんも、家づくりに一緒に参加できる、楽しい作業です。

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下地とはいえ、竹と縄で編まれた格子は美しいですね。

お茶室で下地窓として、一部見せることを思いついたのも、納得できます。

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まずは、「荒壁」といって、土を竹の間に塗り込めます。
これも、けっこうセルフビルドでやっている人たちもいます。
ここの左官工事は、いつもお願いしている江原さんなので、土は群馬県藤岡産です。

藤岡はもともと瓦の産地。つまり、よい粘土質の土が採れるんです。

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土が内部にはみ出してますね。これで土がぐっと竹に食いつきます。

40〜50年くらい前の住宅で使われていた穴のあいたラスボード。この小舞の作業を省くために考案されたのでしょう。そして、左官仕上げは、薄く塗るだけの「化粧」へと進化したわけです。

でも、そこで、何か大切なこと、置き忘れてきてしまったみたいです。

それは土が持っている、「働く壁」としての性能です。(「働く壁」については、過去ブログ「暑さ寒さとつきあう知恵」にも書いています
http://pranablog.seesaa.net/article/118497045.html#more

しっかりと施工された土壁の耐力は、近年科学的に証明されています。

厚みのある土の調湿作用や蓄熱性など、優れた点も再評価されています。

そして、何でできているかわからない建材ではなく、「土」に包まれているというのは安心ですよね。

江原さんのところでは、土に混ぜるワラスサは、無農薬のものだそうです。繊維がしっかり残って強度がでるとのこと。

tuchi_09.JPG

荒壁は乾かして、しっかりひび割れをおこさせてから、中塗り、仕上げという工程を踏みます。
確かに、時間はかかります。

でも、これから何十年と住むことを考えれば、数ヶ月を急ぐのは、どうなんでしょうか。

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こんなふうに、東京でも外壁を板張りにすることができます。(武蔵野・草屋根の家 撮影:畑亮)

土壁には、防火の性能も認められているからです。

様々なメリットのある「土の壁」。

もっともっと、普段使いの素材になってほしいですね。


tuchi_10.JPG


木の家ネットでは、最新のコンテンツで土壁を取り上げています。
木の家そもそも話「土壁の魅力」
http://kino-ie.net/somosomo_071.html

こちらもどうぞご覧ください。



posted by mikihayashi at 08:15| Comment(2) | TrackBack(0) | 木の家のはなし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めまして、こんにちは。
以前から、こちらのホームページを時々拝見させていただいていた、屋久島在住の者です。
今現在屋久島の久保田さんに家を作ってもらっているのですが、頼む前に、どんな家を建てる大工さんなのか、ネット上で検索していて辿り着いたのです。
ところで、こちらの記事を読むと、なんと昨年土壁の家を建てられたのですね!びっくりしました。実は我が家も、屋久島で恐らく2軒目となるであろう土壁の家にすべく、現在悪戦苦闘中なのです。でも、きっと出来上がったら、快適な温熱環境の家になると信じて頑張っています。

これからもいろいろ参考にさせて下さい。よろしくお願いします。
ちなみに、妻の結婚前の名前が、林美樹なんですよ・・・、びっくりでしょう?
Posted by 屋久島遡行人 at 2011年09月03日 23:48
屋久島遡行人 さま
初めまして!
いいですね〜。屋久島にお住まいをつくっていらっしゃるとのこと。久保田さんにお願いしているんですね。気持ちのいい大工さんです。
私の場合、遠方なのでたまにしか現場に行けず、意思疎通に苦労しましたが、、。
土壁は、可能な限りやりたいと思っておりますし、現在も一件依頼されています。
素敵なお住まいになりますことお祈りしています。出来たら写真等、ぜひぜひお送り下さいませ。
そうそう、葉山一色の家の2階も土壁です。
ブログ是非ともご覧下さい。
Posted by みき at 2011年09月04日 17:35
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